
藤田観光の株主優待で、箱根小涌園にあるユネッサン(温泉を利用したプール等のレジャー施設)を無料利用できるので、先日泊りがけで家族旅行に出た。
しかも、泊まる宿は、箱根町のふるさと納税のお礼の品である宿泊割引券を利用。FIREを目指す者として、家族サービスをするにも、レジャー費用を極限まで節約する修行僧のような取組を行ってみた。
現地では路線バスを利用して移動したのだが、その過程で、箱根という日本屈指の観光地における観光公害の現状に直面した。私はコロナ禍前から定期的に箱根旅行をしているので、ここ10年の変化を痛感しているのだが、折角の機会なので、FIRE志望の話というテーマからはすこしずれてしまうのは承知の上で、備忘録的にちょっと書いてみたいと思う。
外国人客の方が多い路線バス
とにかく感じたのが、路線バスの乗客に、日本人よりも外国人観光客の方が多いということだ。そもそも日本人はマイカーかレンタカーで旅行する人が多い一方、土地勘や交通ルールに不安のある外国人観光客が公共交通機関を選ぶのはある意味当然なのだが、昔はこんなことなかった。それだけインバウンドが伸びているということだろう。
いや、外国人客が多いこと自体を問題視したいのではない。問題なのは、路線バス車内(通路や中扉付近)が、外国人旅行客の巨大なスーツケースで占領されてしまい、乗り降りに相当ストレスが生じてしまうレベルになっていたことだ。車両自体がそんな想定で作られていないのだから、仕方ないことなのだが。
もちろん、荷物を乗せること自体はやむを得ないとは頭では分かっている。私は若いころ登山をよくしていたので、登山客が多い山岳路線バスには、登山用ザックが車内に積まれているのはよく見たし自分もそうしていた側だった。が、中扉部分(もともと、前乗り前降りなので、中扉は使わない運用だが)にスーツケースがドカドカ重ねられ、急カーブのときに崩れ落ちそうになっている恐怖感は、登山用ザックを乗せる山岳路線とはまた異なる車内様相を呈していた。輸送力の問題というより、積み方やマナーの問題ともいえるかもしれない。
これがスキーツアーバスなんかだと、大荷物は座席とは別に、車体下部の専用スペースに、車両の外側から積み込むことがある。本来ならそれができればいいのだろうが、頻回乗降が発生する路線バスで、かつ乗務員1名でそれをやるのは時間ロスが大きすぎて現実的ではない。
だから、乗客がそれぞれ、すべての荷物を車内に持ち込みドカドカ積んでいく。当然、降りるときも、取り出すのに手間がかかるということになる。通常、バスの遅れは道路渋滞や、運賃精算による時間ロスで生じるものだと思っていたが、どうやらそれが一番の理由ではない。荷物の積み込み、下車時のモタつきで時間を取るというのが真相のようだ。
終わったはずの「箱根山戦争」の名残、わかりにくい公共交通体系
私は今回、ややマイナーな観光地を回ったため、箱根湯本駅から少し離れたバス停から路線バスに乗った。箱根観光に詳しい人ならご存じだろうが、箱根エリアの「足」すなわち公共交通機関は、大きく2つのグループによる路線網で形成されている。西武鉄道系(伊豆箱根鉄道・バス)と、東急電鉄の流れを汲む小田急電鉄系(箱根登山鉄道・バス)だ。
この2グループは、交通機関だけでなく宿泊施設やレジャー施設などを含め、戦後、箱根地域における熾烈な集客争い・陣取り合戦を行ってきた過去があり、その状況は「箱根山戦争」とも呼ばれた。
1960年の箱根ロープウェイ開業により完成した「箱根ゴールデンコース」が、今年9月7日に開通60周年を迎えた。同コースは、小田急系の箱根登山鉄道、ケーブルカー、ロープウェイ、観光船(海賊船)、バスを利用して…
当時の両グループ総帥の死去とともに両者の関係は雪解けに向かい、数十年を経た現在では協調体制に入ってはいる。しかしそれでも、航空路線や高速バスなどの世界で見られる共同運航(運行)のレベルまでは至っておらず、ほぼ同一路線であるにもかかわらず時刻表はそれぞれだし(バス停の掲示はもちろんのこと、インターネット上でもわかりにくい)、最も頭を悩ませるのが、小田急系のフリーパスでは伊豆箱根のバスには乗れないという問題(観光客は大混乱、、、)が今なお続いていることだ。
箱根に点在するメジャーな観光地では、箱根登山系、伊豆箱根系の両方のバスが走っているだけに、「こっちのバスには乗れない」という制約によって、特定のバスに外国人乗客が集中する理由になっているのだとしたら問題ではないだろうか。
混雑緩和のため、バスの便数を増やしたり、機材を変えることは難しいのだから、仮に共同運行やフリーパスの開放(運賃プール精算制導入)で、乗客の集中緩和(平準化)に対処できるなら(このあともう1台バス来ますのでそっちに乗ってくださいと案内できる)、国内外の観光客にはとっていいことづくめであり、満足度向上でリピーター増加につながれば、交通事業者にとってもメリットになるのではないだろうか。
そもそも運転手不足という問題が真綿で首を締めるように効いてきている昨今、いまどきこんなことを続けていればいずれ共倒れになってしまう。ぜひ、関係者に善処を期待したいところである。