今や多くの公務員が、自分のサイトやブログ等にアフィリエイト広告を出すのは当たり前になりました。副業というほどではないにせよ、うまくいけばちょっとしたお小遣い稼ぎもできるといった状況でしょうが、そもそもアフィリエイト広告収入を得ること自体、副業規制との関係でどうなのか…。
この投稿では、この「古くて新しい問題」について考えてみます。
国や自治体のソーシャルメディア利用ガイドラインでは、アフィリエイトについてあえて言及していない
アフィリエイト広告が世の中に入ってきて、おそらく20年以上経っていると思いますが、公務員の副業規制との関係で、はっきりと禁止をルール化した文書は、ほぼ見受けられないようです。総務省や地方自治体(下記リンクカード参照)が作っているソーシャルメディア利用のガイドラインには、主に投稿やリアクション(いいね、フォロー等)についての注意事項が掛かれており、アフィリエイト広告とその収入云々に関しての記載はありません。
新宿区の公式ウェブサイトです。
本市では、職員が個人的にツイッターやブログといった、いわゆるソーシャルメディアを利用する際の基本的な考え方や、市政に関する情報を発信する際の留意すべき事項を定めました。
職員のソーシャルメディア利用に関するガイドライン令和3年6月30日策定1 基本方針小諸市は、SNSを含むソーシャルメディアを「市民、市外の方の声を聴く大切なツール」また、「市民、市外の方へ情報を届ける大切なツール」と捉え、正規及び非正規職員(以下、「職員」)がこれを積極的に活用することを推奨しています。同時に、職員のソーシャルメディア利用において、職員のソーシャルメディア利用に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)を策定し、職員がガイドラインに定められた振る舞いやマナーなどの基本原則を順守することを徹底していきます。2 適用範囲本ガイドラインは、職員としての身分を有する次の者に対して適用されます。地方公務員法(昭和25年法律第261号)第3条第2項に規定する一般職員、同法第22条の2第1項に規定された会計年度任用職員又は同法第28条の4第1項に規定された再任用職員。3 ソーシャルメディアを利用するうえでの心構えソーシャルメディアでは、個人としての立場と小諸市職員としての立場の区別が明確ではありません。個人の意見を発信することはもちろん自由ですが、その発言が原因となって、小諸市の社会的信用が損なわれる可能性があることを自覚してください。4 ソーシャルメディアの特性の理解ソーシャルメディアを含むインターネットには次のようなリスクがあります。良識に基づき、誠実かつ透明性の高いコミュニケーションを心がけてください。また、批判を受けるようなことがあっても、感情的に反論することは控えましょう。発言しようとしている内容に不安を感じた際は、即座に投稿せずに発信を中止する。または、少し間をおいて考えてみましょう。(1) 投稿した発言は、半永久的に保存されます。一度、インターネット上に公開された情報は完全には削除できないことを認識してください。たとえ、自らの投稿そのものを削除したとしても、第三者による投稿のコピーや保存は容易にできます。(2) 投稿した発言は、インターネット上の多くの人々が閲覧可能です。インターネット上での発言は、友人以外の多くの人々も見ることができます。インターネットは、公に開かれたスペースであるという意識を持ちましょう。(3) 投稿した発言は、瞬時に拡散します。インターネット上では自らの発言は際限なく広がっていく可能性があるという意識を持った上での投稿を心掛けましょう。(4) 完全な匿名は存在しません捜査機関やプロバイダーの協力を得ずとも、普段の発言やソーシャルメディアの交友関係から個人が特定できる可能性があるという意識を持ちましょう。5 ソーシャルメディアの利用にあたっての基本原則(1) 職員がソーシャルメディアを利用して情報を発信する場合には、上記特性を理解したうえで、利用してください。また、私用であっても小諸市職員であることの自覚と責任を持つようにしてください。(2) 地方公務員法を始めとする関係法令及び小諸市条例等を遵守してください。なお、私的な利用にあたっては、就業時間中の利用を禁止します。(3) 基本的人権、肖像権、プライバシー権、著作権、商標権等を遵守するとともに、その権利保護に十分留意してください。(4) 発信する情報は正確に記述するとともに、その内容について誤解を招かぬよう注意してください。(5) 意図せずして自らが発信した情報により他者を傷つけたり、誤解を生じさせたりした 場合には、誠実に対応するとともに、正しく理解されるよう努めてください。(6) ID、パスワードの保護、安易な友達承認によるアカウント乗っ取り被害の防止など情報セキュリティの正しい知識と対策に関心を持ち、適切な利用を行ってください。6 情報発信に関する禁止事項次に掲げる情報を発信してはいけません。(1) 個人又は団体を中傷、誹謗する情報又は不敬な言い方を含む情報(2) 人種、思想、信条等の差別又は差別を助長させる情報(3) 違法行為又は違法行為を煽る情報(4) 職務の公正性又は中立性に疑義を生じさせる恐れのある情報(5) 業務上知り得た守秘義務をともなう情報(6) 真偽不明の情報、単なる噂や噂を助長させる情報(7) 閲覧者に損害を与えようとするサイト又はわいせつな内容を含むサイトに関する情報(8) 故意にネットワーク上の善意の情報交換を妨げようとする情報(9) 市の信用・名誉を傷つける情報(10) 市あるいは市と利害関係にある者又は団体の秘密に関する情報(11) 市及び他者の権利を侵害する情報(12) その他公序良俗に反する一切の情報7 市政及び業務に関する情報を発信する際の留意事項(1) 職務に関する情報を発信する場合は、 地方公務員法に規定する守秘義務を遵守してください。(2) 職務に関すること、あるいは自身が小諸市職員に属することが判るような形で情報を発信する場合は、プロフィール(氏名、必要に応じて職務)を明らかにするものとします。 また、発信した内容は、個人的な見解であり小諸市の意見を代弁するものではないことを明確にするものとします。8 その他(1) 本ガイドラインは、情報通信技術の進歩や社会情勢の変化に合わせ、随時改定を行います。(2) このガイドラインに定めるもののほか必要な事項は、「小諸市情報セキュリティポリシー」及び「小諸市ソーシャルメディア運用規定」によります。
一方、公務員の副業に関して情報提供やスクール運営を行っている安彦和美さんは、一部の地方自治体で、アフィリエイト禁止通達が出たという情報をキャッチしたという記事を書かれています。職員にはっきり禁止を通知した自治体があるのが本当ならば、そこでは、懲戒処分の恐れもあるということになります。
【2021.10.28】アフィリエイト禁止通達について、緊急の情報共有と対策提示。某地方自治体において、職員のブログやサイトでのアフィリエイト掲載・収益化が「営利企業等の従事制限違反にあたる」との見解
はっきり禁止していない自治体では認められるのか
では、はっきり禁止されている自治体以外では、職員がアフィリエイト広告を出して収入を得ることの合法性はどうなのでしょうか。
これは、あくまで当サイトにおける見解であり、以下は、最終的にはお読みいただいた各自の判断に任せますが、現状ではどちらも考えられます。
【明確に禁止されていない限り合法と考える説】
職員個人が勤務時間外に運営しているSNSや個人サイトにアフィリエイト広告を貼り付けることで収入を得る手段が現存することを、まさか役所の人事当局が知らないとは思えません。現時点で、アフィリエイト広告収入が副業制限に違反すると人事当局が考えているなら、「不意打ち防止」という意味であらかじめ職員に対してそういう通知を出しておくことが「筋」です。
ところが、ソーシャルメディア利用のガイドラインを作りながら、アフィリエイト禁止を明示せずに放置しているとなれば、現状では、静観(黙認)しているという見方ができます。今後、仮に明確に禁止されることになったとしても、「罪刑法定主義」に準じた考え方をとれば、以前の行為は懲戒処分には問われないとなる可能性が高いでしょう。
【明確に禁止されていなくても合法とは言えない説】
一方、役所の縦割りの悪いところですが、ソーシャルメディア利用のガイドラインは広報・情報発信・ICT関連を所管する部署が主導して作ったものだから、副業の観点は所管外だからあえて踏み込んで言及しなかっただけで、書いていない=合法であると認めたことを意味しない、という可能性もあります。
ちなみに、上の千葉市のガイドラインと、FAQ(よくある質問)には興味深い記述があります。
地方公務員法をはじめとする関係法令及び職員の服務や情報の取扱いに関する規程等を遵守しなければなりません。
ガイドライン4(2)
服務規程の遵守とはどういうことですか。
A.地方公務員法第三章第六節の服務規程を遵守することです。
FAQ Q.13
具体的には、信用失墜行為の禁止(法33条)、秘密を守る義務(法34条)、職務に専念する義務(法35条)、政治的行為の制限(法36条)等です。
FAQを読む限り、守るべき服務規程の例示列挙には副業規制のことは書いてありません。が、「等」に含まれているかどうかという話ですね。地方公務員法第三章第六節と書いてあるので、含まれないとは言えないでしょう。
それにしてもなぜこういう書き方になっているかを推測すると、そもそもソーシャルメディア利用(に限らず、古典的な個人サイトの運営を含む)における一番の課題は、記載内容やリアクション(いいね、フォロー等)におけるトラブル防止にあるので、まずは最低限、信用失墜・守秘・職務専念・政治的行為について列挙すればいいという考えで、このような規定及び回答になったのだと思われます。
言い換えると、アフィリエイトについては、分かっていてあえて書かなかった(いったん黙認しつつ、状況によってはOUT!とするグレーな運用を想定している)ということではないかと思います。
で、実際に人事部門に聞いたらどうなるか、聞かないほうがいいのか
では、アフィリエイト広告収入に関するルールを定めていない役所の人事部門に、「うちの役所の職員が行うことは大丈夫ですか」などと問い合わせた場合、どうなるでしょうか。
結論からいえば、正式に質問すれば、セーフと明言される可能性は低い(アウトと言われてしまう可能性が高い)と当サイトでは考えます。
誰か1人にでも公式にOKと答えてしまえば、役所の内部では簡単に知れ渡り、これで堂々とやれる!とばかりに、同じ役所からアフィリエイター続出となってもおかしくありません。それは人事当局としては、決して望ましい結果ではないでしょう。
だから、白か黒かと正式に聞かれたら、「アフィリエイト広告収入が発生しうる私的なインターネット情報発信行為は、報酬を得て行う事業・事務に該当しうる」として、ある種、警告的な意味も込めて、そうした行為自体を抑止しようとすることは容易に想像できるのです。
したがって、アフィリエイト広告を入れた個人サイト・ブログ運営を行う場合は、職場ではあえて触法可能性を確認せずに、あくまで自己責任でグレーゾーンのままバレずに運営するのが最善手だと考えます。
なぜグレーゾーンのまま放置されてきたのか
ではなぜ、総務省やいくつかの自治体が出しているSNS利用ガイドラインでは、アフィリエイト広告収入に関して明言を避けているのでしょうか。あくまで当サイトの推論ですが、こんな事情ではないかと思います。
- 前例主義の役所としては、他の自治体がどこもはっきりと言わない中で、先陣を切って「ダメ」とも「良い」とも言いたくない、言えない。
- 個人の趣味とか仕事以外の生活の話とか、世の中のニュースへの言及などをテーマにして、勤務時間外に(職務専念義務の順守)、職務の公正さを疑われるなど後ろ指をさされることなく(信用失墜行為とならない)、業務上の秘密を洩らすこともなく(守秘義務)、ましてや政治的行為に当たらない投稿を行っていたら、表現活動自体では問題は生じない。そういった情報発信に関連したアフィリエイト広告収入がたかだか月に数万円くらい出ても、公務の公正性や信頼性を害するとは思えないので、あえて厳格に規制する必要はないと考えており、とりあえず黙認を決め込んでいる。
- 原稿を書いた対価として原稿料を貰うのならば、たしかに報酬を得た事業・事務に当たると言われても説得力があるが、たかだか成果報酬型で不確定性の強いアフィリエイト広告収入は、法が規制する報酬を得た事業・事務であるとして厳格に対応すべきか微妙なので、とりあえず黙認を決め込んでいる。
おそらくこんなところではないかと思われます。ただ、これが役所がだんまりを決め込んでいる理由なら、あるきっかけで方針がガラガラと音を立てて崩れ、方針転換が起きるかもしれません。
今後、アフィリエイトが明確に禁止されるきっかけがあるとすれば
それは、公務員に対する社会の目、要するに
「公務員が、インターネットブログ等でお金を稼いでいる。副業禁止ルールに違反しているのではないか?ケシカラン」
ということが世間で炎上してしまった場合だと、当サイトでは考えます。
今でも、一部の公務員がアフィリエイト広告で、ささやかに小銭を稼いでいるであろうことは、公務員以外でも知っている人は知っています。ただ、悪目立ちしないようにやっていたので、そこまで目を付けられることはなかった、というのがこれまでの実状でしょう。
ところが今後仮に、現役公務員がアフィリエイトで荒稼ぎし脱税もしたというような事件が起きて報道され、炎上することでもあれば大きく話題となり、一気に状況が動くかもしれません。
そんなときに、お役所業界が
「守秘・職務専念・信用失墜行為禁止・政治的行為禁止義務を守る限り、ブログ等の運営に伴うわずかなアフィリエイト収入程度なら問題視する必要はなく、副業には当たらないと整理しています」
という主張をして世論の荒波に抗しきれるのかといえば、おそらく無理でしょう。世の批判を受け止めてまでアフィリエイトを認めてあげる義理は役所の人事当局にはないのですから。
こうして、収入金額の多寡を問わず、一気にアフィリエイト規制の大波がやってくるかもしれません。
そうならないためには、世の公務員一人ひとりが、アフィリエイトは各種規定を守った投稿等とセットでささやかに行うことや、万一年間20万円以上儲かったらきっちり申告・納税するなどを守るしかないのではないかと思います。
やはり、アフィリエイトは国が条件付き公認し、地方もそれにならっていくことが今後のため
とはいえ、現状のグレーゾーンが今後も続くことはあまり良いことではないと当サイトは考えています。今のようなグレーゾーンのままだと、どこかで誰かが何か事件が起こして世論が炎上した時点で、そもそもアフィリエイトそのものが信用失墜行為だったのではないかという疑義すら出かねず、議論の行方次第では全面焼け野原(世論の炎上を受けてアフィリエイト全面禁止とせざるを得ない状況)に追い込まれる可能性すらあります。
なので、そうした事件が起こる前に、まずは国が先行して一定の条件を付けてアフィリエイト広告収入を公認し、それに地方も追随していくことが望まれます。そうすれば、今後炎上した場合でも、アフィリエイトはもともと一応認められているという前提で、個別のルール違反事案が問題なのだという説明ができると思うからです。