来年のパリ五輪のマラソン代表権を賭けた「男子マラソングランドチャンピオンシップ」が今日開催されました。ところが、レース結果を伝えるニュースの主役は、なんと優勝した選手ではありませんでした。パリ五輪に内定した選手を差し置いて主役に躍り出たのは、前半から「魂の大逃げ」を見せながら、最後は4位に沈んだ川内優輝選手です。
「マラソングランドチャンピオンシップ」(15日、国立競技場発着) 24年パリ五輪代表選考会を兼ねて行われ、男子61人が2枚の五輪切符をかけて争った。今回が130回目のマラソンとなる川内優輝(36)=あいおいニッセイ同和損保=が意表を突いた大...
なぜ公務員の副業をテーマとする本サイトで川内選手を取り上げるのかと言えば…そう、彼はもともと、フルタイムの公務員として働きながらマラソン大会に出場するランナーであったのですよね。ところが、今回のレースの結果を報じるニュースでは、もはやそのことにはまったく触れられていません。
公務員の副業を取り扱う当サイトとしては、その点は少し寂しくもありますが、むしろそれはアスリートとしての彼にとって望ましいことであるはずです。「公務員と二足の草鞋」とか「最強の市民ランナー」とか言われて特別扱いされていたころに比べ、世界陸上やアジア大会、さらにはボストンマラソンなどの海外の有名レースにも出場して、実績を積み上げてきたからこそなのですから。
思い返すと、川内選手が埼玉県庁を退職したのは2018年度末、プロランナーの道に入ってすでに4年半です。公務員時代はマラソンレースに出て賞金を得ていたわけではないので、厳密な意味での有報酬の副業をしていたとはいえないとしても、それでも課業以外の多くの時間をマラソン練習と本番に充てていたわけです。当サイトの考えでは、確実に副業の部類に入れていいと思っています。
ただ、この副業が良くも悪く目立ってしまったのです。レースに出る以上、ときには報道される可能性もありますから。結局、彼の活動を周囲(上司や同僚、さらには役所の外の人など)がどう思っていたかという面があり、賞賛もあれば、妬みや批判もあったはずです。実際、過去の新聞記事を見ると、川内選手としては、公務員のまま走り続けていたころはいろいろ苦労があったようでした。
17年世界選手権で代表引退を表明していた川内優輝(31=埼玉県庁)が一転、19年世界選手権(ドーハ)への出場意欲を示した。ハーフマラソンを1時間2分49秒でフ… - 日刊スポーツ新聞社のニュースサイト、ニッカンスポーツ・コム(nikkansports.com)
「結局、公務員プラス日の丸の重圧が厳しかったわけだったんです。公務員のくせに『走ってばかりいやがって』みたいに言われたりしていたので。プロになれば、十分に日の丸のために仕事を休んでいいじゃないですか」。
日刊スポーツウェブサイトより
とはいえ、埼玉県庁時代の川内選手は、たとえ練習時間や環境に課題はあったにせよ、間違いなく「公務員の星」であり、世の公務員たちに夢を見せてくれた人だと思うんです。
比べたり、喩えたりするのはナンセンスなことを承知なうえでいいますが、大リーガー大谷翔平選手の二刀流に対して、どちらか(特に打者)一本に絞れば、さらにすごい結果が出るという野球評論家がいるでしょう。おそらく実際にそうなのでしょうけど、そうなると私たちは、投手でも、打者でもすごいという「夢」を見ることができなくなってしまいます。
川内選手にも同じことが言えて、埼玉県庁を辞めて二足の草鞋をやめたから、そのあと一層羽ばたけたと言えるのかもしれません。が、公務員をやりながら一種の副業扱いで、一流の兼業アスリートと活躍し続ける姿こそが、ある意味公務員が見たかった「夢」ではなかったでしょうか。私は、もっと見てみたかった気がします。