今回は、公務員に許される副業とは何かという問題を考えるにあたり、是非皆さんに知ってほしい過去の事例を紹介します。ほぼ20年前のことなのですが、学校の先生がイベントの司会を副業にしていたのが見つかって停職処分になったという事件です。
そもそも学校の先生って、授業で喋るのが仕事じゃないですか。全員ではないにしても、職業柄、間の取り方、興味を引く喋り方などが自然と身についていると思うんです。結果として、司会みたいな仕事に高い適性を持つ人もいるんだと思うんです。
事件・報道内容の要約
2004年6月、東京都内の区立学校(おそらく小・中学校のどちらかでしょうね)の48歳の教員が17年半もの間、司会業を続けていたことを理由に教育委員会から停職処分を受けたというニュースが報じられました。
そう聞くと、それはずいぶん長いことやっていたねという感想を持つことでしょう。この間、司会を引き受けた回数はなんと約1000回、謝礼は累計約2000万円にも及ぶとのこと。退職金レベルじゃんか!と思っちゃいますね。
ん?17年半で1000回だと、平均して約57回/年です。え?ほぼ週1回?
普通に考えると、学校の先生が平日に有給をとって司会の副業をするとは考えにくいので、司会派遣業者に登録するなどして、土日にこっそり結婚式の司会をやっていたと考えるのが自然ですよね。
でも、学校の先生って、関係者(在校生・卒業生・保護者)から覚えられる職業じゃないですか。結婚式の司会を長年続ければ、どこかで誰かとバッタリ鉢合わせすることはあってもおかしくないのですが、そうならなかったから長く続けられたってことなんでしょうかね。
とはいえ、こういうことがバレるのは、どう考えてもタレコミしか考えられないので、ある日どこかで誰かに見つかってしまったのでしょう。仮に司会者としては芸名で活動していたとしても、声と顔は変えられませんから。
「あれ、あの司会者、●●先生に似ている」「学校の先生って、バイトしていいんだっけ?」
そんなことが起きてしまったのでしょうね。
学校の先生が司会業をなぜやってはいけないのか?
ずいぶん古いこの事件ですが、この事件を知った時、私は素朴に疑問を感じました。本業がおそろかになることもなく、おかしな利害関係も生じず、20年近く続けられた副業という意味では、こういう副業はそもそも本当に規制されるべきものだったのか?ということです。
もちろん、無許可副業はたしかにいけないことです。しかし、そもそも正直に申請しても、教育とは関係ないことなので絶対に許可はおりなかったでしょう。そう考えると、そもそも、こういう副業を禁止し、許可も出さないこと自体に、憲法違反(職業選択の自由の過剰規制)の可能性はないのかな、って思ってしまうんです。
でも、なぜそんな規制が認められてしまうかというと、それがおかしいと言ってくれる味方がどこにもいないからなんだと思います。
こういう副業をする人というのは、安定している公務員の中にたまにいる芸達者な人なわけですが、そういう人に対して、職場の中に渦巻くのは嫉妬です。そして職場の外(公務員以外の市民・国民)からも、安定している公務員が報酬を二重取りするのかという嫉妬が出るわけです。このように両側から責められた副業公務員は、なんでもかんでも「公務員の信用失墜」にぶち込んで片づけてしまうのがお役所としては楽、ということになるのかなと思ってしまいます。
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これまでの投稿でも書いてきたとおり、近年喧伝される公務員の兼業規制緩和とは、あくまでも地域コミュニティ振興や地場産業の人手不足対策など公益目的に合致する範囲内でのものがほとんどであり、自分の特技や趣味を活かした副業を有報酬で行いたいと思っても、まず許可されません。 これはなぜなのでしょうか。その理由ははっきりと公表されているわけではありませんが、官公庁の人事部門の心の内を想像しながら、当サイトなりの仮説を紹介したいと思います。 以前、国家公務員として中央官庁で働き
こういう懲戒処分を受けることになった公務員のうち誰か一人でも、そもそも公務員の副業制限は厳しすぎて違憲だ!と、戦ったら法的論点としては非常に興味深いのですが、どうせ特別権力関係理論を持ちだされて負けることが分かっているから誰も戦わないのかな、、、。
こういう状況に忸怩たる思いを抱えている公務員は全国に少なからずいるので、今ならクラウドファンディングも集まるような気もしますけどね。