ここ数年、公務員の副業が解禁されつつある、という報道を目にしたことはありませんか。客観的に言えば、たしかに国家公務員でも、地方公務員でも、副業解禁に向けた「静かな波」は広がりつつあるように思えます。しかしそれが、副業をしたいと考える多くの公務員にとって本当に救いになるかと言えば、そう簡単ではなさそうです。

 本記事では、そうった点を紹介したいと思います。

 まず、国家公務員については、政府が平成30年6月に閣議決定した「未来投資戦略 2018」の中で、「公益的活動等を行うための兼業に関し、円滑な制度運用を図るための環境整備を進める」と書かれました。

 もともと、兼業許可については次の規定があり、

【職員の兼業の許可に関する内閣官房令第1条】
 内閣総理大臣及び所轄庁の長は、兼業の許可の申請があつた場合においては、その職員の占めている官職と国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百四条の団体、事業又は事務との間に特別の利害関係がなく、又はその発生のおそれがなく、かつ、職務の遂行に支障がないと認めるときに限り、許可することができる。

その基準を定めた、昭和41年通知というものがあったのですが、基準が不明確だったので、閣議決定を受け、さらなる具体化(補足)を行った通知が平成30年度末に発出されたのです。以下は、旧通知及び新通知を当サイトが解読し、両者の対応関係をわかりやすく書き換えてみたものです。とはいえ、役所にオーソライズされた解釈ではありませんので、あくまで参考としてお読みください(書いてある内容に関し、当サイトは閲覧者に対して一切の責任は負いません)。

「職員の兼業の許可について」(昭和41年2月11日総人局第97号)【抜粋】「職員の兼業の許可について」に定める許可基準に関する事項について(平成31年3月28日閣人人第225号)
第3 許可基準に関する事項
2 兼業の許可に関する申請が次の各号の一に該当する場合には、原則として、許可しない取扱いとされたいこと。
昭和 41 年通知「第3 許可基準に関する事項」について
(1) 兼業のため勤務時間をさくことにより、職務の遂行に支障が生ずると認められるとき。平成31年通知における記述なし
(2) 兼業による心身の著しい疲労のため、職務遂行上その能率に悪影響を与えると認められるとき。 兼業しようとする職員の健康、兼業する事業又は事務の内容や兼業先の勤務時間数(以下「兼業時間数」という。)、官職における超過勤務時間を含めた勤務の状況等を考慮して判断する。
【以下の場合は原則として兼業不許可】
・兼業時間数が週8時間又は1箇月 30 時間を超えるとき
・勤務時間が割り振られた日において1日3時間を超えるとき
(3) 兼業しようとする職員が在職する国の機関と兼業先との間に、免許、認可、許可、検査、税の賦課、補助金の交付、工事の請負、物品の購入等の特殊な関係があるとき。平成31年通知における記述なし
(4) 兼業する事業の経営上の責任者となるとき。平成31年通知における記述なし
(5) 兼業することが、国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき。【兼業先】【兼業内容】【報酬額】の3つで基準を設定(下記参照)。
【兼業先】の性質による適否
法人・団体の類別不許可基準
国、地方公共団体、独立行政法人、国立大学法人、地方独立行政法人等なし(原則として許可)
公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人、学校法人、更生保護法人、医療法人、特定非営利活動法人等次のいずれか1つにでも該当すれば不許可
①当該団体にその設立目的に沿った活動実績があることを事業報告、活動計算書等により確認することができないとき
②当該団体又はその役員若しくは役員であった者が、業務に係る刑事事件に関し起訴されたり、団体の業務運営に重大な影響を及ぼす許認可等の取消などの行政処分を受けているとき
(一応、特別な法律に基づき、それなりの条件をクリアしないと設立・維持できない法人であるため、ここでの基準は低めになっているものと思われます。)
一般社団法人、一般財団法人、自治会・町内会、マンション管理組合、同窓会等上記①②及び下記③④のいずれか1つにでも該当すれば不許可
③定款等に記載されている非営利団体の目的が国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがあると認められるとき
④当該団体の直近3年分の事業報告、活動計算書等の資料がHP等により国民に広く公表されていないとき
(いろいろな団体があるため、ある程度の基準を設けて、公務員が兼業したときに後ろ指をさされない団体であることの確認が必要なのだと思われます。)
営利企業原則としてすべて不許可
【兼業行為】の適否

 兼業しようとしている行為の内容が、兼業先の組織の本来の事業目的から外れている事務等であれば不許可。

 また、兼業しようとしている行為そのものが、信用失墜行為に当たるようなものであれば不許可。

【報酬額】の適否

兼業で得る報酬が社会通念上相当と認められる程度を超える額であれば不許可
 たとえば、講演等に対する報酬については、国家公務員倫理規程第9条第2項に基づき、利害関係者からの依頼に応じて行う講演等への倫理監督官による報酬基準が定められているので、それを超える場合は不許可

以上が国家公務員の副業(兼業)許可基準です。

 これを見る限り、従来は不明確だった兼業の禁止・許容の輪郭を明らかにしただけで、必ずしも兼業可能な範囲が広がったとは言いづらいです。しいて言えば、これまで不明確だったところがはっきりしたので、これまで怖くて踏む込めなかったがこれからは安全に踏み込めるホワイト副業エリアが分かったことで、広がった感覚を持つ人もいるかもしれません。ただ、今回はっきりしたのは、兼業は基本的に公益的活動であることが前提になっているということ。 

 写真撮影で兼業許可を取ろうとして承認されず、その後民間に転職して兼業フォトグラファーになった中央官庁の元官僚がいらっしゃいますが、まさに、趣味を活かした副業など、まったく解禁されていないのです。

 なぜそのように、趣味の副業が認められないのかについての考察は、いずれ別の機会で行ってみたいと思いますが、とりあえず次回は、地方公務員の状況について解説してみたいと思います。 

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