株式投資と不動産投資の徹底比較の投稿3回目です。今回は、実際に投資を始めた後のテクニカルな面からのメリット、デメリットの比較になっています。
株式投資の優位ポイント⑨ 保有期間中の資産価値がわかりやすく、いざというときの売却も容易
長い人生の中で、突然まとまったお金を用意しなければならない急な事情が生じることがあります。個人資産の多くを投資に充てている人であれば、お金を作るために手持ちの資産を処分することが必要になりますが、そんなときに簡単に売ることができるのが株式投資のメリットです。
なぜなら、株式は、売りたい人・買いたい人が集まるオープンな取引市場が平日の昼間に開かれており、そこで随時変動する値段(株価)で「売りたい」「買いたい」と申し込めば(注文を入れれば)取引できるからです。なお、夜間でも売買できる証券会社もあります。
随時値動きがあるので、取引成立のタイミングの違いにより取引価格の差は出るものの、あるタイミングで取引すれば、誰々と取引したから売買の値段が高かった、安かったという違いはありません。
なお、当たり前のことですが、この「いくらで売れるのか」≒資産価値ですので、株式は誰かに査定を依頼しなくても常に資産価値が公開されています。それを見ながら、どのタイミングで売れば儲かるのかを考えるのが株式投資というものです。
一方、不動産の資産価値の把握と売却はそう簡単にはいきません。企業の株式銘柄のように決まった規格で大量に取引されるものとは違い、不動産は物件一つひとつに個性があるため、株価のように客観的な市場でビシッと決まる価格が存在しません。せいぜい、立地などの条件が似た物件の取引事例をもとに弾き出される価格水準(相場)があるだけです。
しかし、時とともに変化する不動産相場について精度の高い情報を素人が入手することは難しいので、自分が持っている不動産の最新の資産価値を知るためには、不動産会社などに査定を依頼する必要があります。
しかも、査定で出た価格はあくまで相場に基づく「理論値」であって、その値段で売りに出せば確実に買い手が見つかるわけではありません。ここが、株式と異なる不動産の難しい点です。
不動産で実際の売買が成立するためには、売りたいと思っている物件に興味を持つ潜在的な需要家が現れて取引条件(価格のほか、設備状況、引渡時期など)に合致することが必要です。
言い換えると、不動産というのは、様々な条件を総合した上で、買い手が買おうと思える値段にならない限り売れないのです(条件に難のある物件だが、もう少し値引きしてもらえるなら買ってもいいかという話になる)。そういう事情もあって、不動産は株式などに比べると急いで現金化することが難しく、売り急げば足元を見られて値段が下がることにつながりかねません。
株式投資の優位ポイント⑩ 保有コストがかからないから、含み損を抱えたまま相場の上昇を待つことが可能
そもそも不動産、株式のいずれも、マクロ(全体的)な経済の影響を受けて価格が変動する資産です。経済が全体的に好調で、相場が高めの時期に不動産や株式を買ってしまうことを高値掴みといいますが、そのあと相場が下がれば、含み損(現在の資産価値が買い値を下回る状態)を抱えることになります。
この状態で資産を売れば損失は確定しますが(損切り)、損切りせずに持ち続け、いずれ買った水準まで戻れば損失を出さずに済むので、そうする人もいます(塩漬け)。
ただし、資産価値が元に戻る可能性やそれに要する期間は、どの程度の高値掴みをしたか(=含み損の大きさ)で変わります。価格上昇のピークに近いところで買っているほど含み損が大きくなるので、価格が戻る(含み損が解消される)可能性は低くなり、仮に実現したとしてもかなり長い時間を要することになります。
こうした事情(理屈)は不動産も株式も同じです。しかし、いざ含み損を抱えたまま持ち続けるとしても、株式の方が不動産に比べて圧倒的に有利な条件が揃っているということを説明しておきましょう。
まず、株式の場合は、持ち続けてもランニングコストがかかりません。損切りしないまま、値が戻っていく期待(絶望的なまでの含み損を抱えた場合は、もはや「夢」といってもいいかもしれません)を持ち続け、売らない選択をすればいいのです。その上で、最低限、配当や株主優待でわずかでも利回りを確保することができます。10年くらい持ち続ければ、仮に資産価値が元に戻らなくても、その間に回収したお金で、売却損がトントンになる可能性もあります。
一方、不動産投資ではそんな悠長に相場の上昇を待っていることができません。なぜなら前回書いたように、不動産を保有し続ける間、家賃収入から管理費・税金等の支払いを差し引いた収支がマイナスになる場合、コストの垂れ流しになってしまうからです。そのため、相場が悪くなってしまったときは、その復活を期待して長期間含み損を抱えることなく、どこかで損切りすることが必要になるのです。
ただし、借金して不動産を買っている場合、売却(査定)額より残債が多いと、再度ローンを組むか、貯金を崩して支払いに充てるかしないといけないので、簡単には売却できません。借金して不動産投資をすることの恐ろしさが少しは分かっていただけたでしょうか。
株式投資の優位ポイント⑪ 価格のV字回復の望みが不動産に比べて高い
上記⑩では、株式は不動産と違い、持ち続けてもコストが発生しない分、長期間の塩漬け保有のハードルが低いことを指摘しました。もちろん不動産についても、毎月の収支がマイナスでなければ相場の回復を待ち、無理に損切しなくてもいいのかもしれません。
ただ、高値掴みしてしまった資産の相場が復活して資産価値が戻るためには、一般論としてマクロ(全体的)な経済が好転することが必要です。
しかし、ここ20年くらいの経済情勢を振り返ると、リーマンショックや東日本大震災などでどん底にあった景気が、アベノミクスで復活して株式や不動産の相場は上昇基調で来たわけです。この高水準の価格で資産を取得し、その後落ち込んでしまった場合、下落を取り戻せるほどまでに、もう一度経済が復活する可能性はあるのかといわれるとどうでしょう。少子高齢化も進んでいる中では限りなく厳しいのではないでしょうか。
では、全体的な経済状況が好転せずとも、株式や不動産の資産価値が復活する可能性はあるのか…というと、実はあるんです。自分の保有資産に好影響を与える個別具体的な事情が生じれば、全体的な経済状況に関係なく、資産価値は上がるからです。実際、そういうことはまったく起きないわけではありません。ただし、これから説明するように、不動産に比べて株式のほうが、そうした事情の発生可能性が高いと考えられます。要するに、仮に含み損になっても、株式のほうが未来は明るいと考えられます。
なぜ株式のほうが不動産よりも将来に期待が持てるのかというと、まず、個々の企業の株価とは、将来の成長性(株価上昇)に期待した、ある意味「人気投票みたいなもの」の結果で決まるものだからです。
仮に、今業績が低迷して株価も下がっている企業があるとしても、将来の業績を見据えると「イケる」「ブレイクする」(安い今のうちに買っておいて高くなったら売ろう)と投資家たちが考えれば、いずれ積極的な買いが入って株価が上昇するという側面があるためです。もう少し具体的に言いますと、
- 事件事故の発生、財務状況の悪化など、何らかの理由で株価が低迷していても、実は優良な顧客・技術・資産がある企業ならば、一定期間後に株価が復活する見込みがあります。
- 株価(時価総額)が安い状況に目を付けて(=お買い得だと考えて)買収しようとする者が現れれば、公開買い付けなどにより株価がはね上がる可能性があります。
- そもそも業績が低迷している会社は、業績と株価の回復を目指して、経営者や社員の努力により新製品の開発や新たな販路の開拓を行うものであり、その努力が実る可能性は一定程度あります。
上記のように、そもそも会社というものはその成り立ちゆえに、株価を上げようと構成員(経営者・従業員)が頑張ってくれるため、ある程度株価が落ち込んでも反発するポテンシャルを持っているのです(あくまでも、潜在的な可能性という意味であり、確実に実現するとは限りません)。
一方の不動産はどうでしょうか。不動産自体はあくまで「物」ですので、価格上昇に向けて「自分磨き」をしてくれることは決してありません。いや、そもそも建物は時間とともに劣化しますから、なにもしなければ資産価値は自然と右肩下がりになるのが宿命で、投資家自身がわざわざコストをかけてリフォームだリノベだのをしなければならないわけです。こうした点を比べても株式とは歴然とした差があります。
そんな中で、マクロ経済関係なしに保有不動産の価値が上昇する個別事情と言えば、各物件の立地や環境が良い方向へ変化することです。その結果、そのエリア全体の不動産取引相場が上昇するわけです。
具体的には、交通アクセスの向上(鉄道や道路の開通、新駅設置など)、大規模再開発による魅力向上、不動産賃貸需要を大幅に高める施設(企業、大学など)の設置、逆にいわゆる迷惑施設の撤退などが考えられます。しかし、自分が投資物件を持った後に、その近場で突然そんな「棚ぼた」事情が運よく発生する確率なんてあるのか?と思わないでしょうか。
株式投資の優位ポイント⑫ 株式には、保有資産の取得価格を下げる(高値掴みを緩和させる)テクニックがある
株式でも不動産でもいいですが、過去に買った投資物件が一定程度値下がりしたとします。値下がり幅が小さいほど、そのうち戻るのではないか、という期待は大きいはずです。しかし、値下がり幅が大きくなってしまうと、もはや絶望です。当然ですが、値下がり幅というのは資産の価格変動(相場)によるので、投資家としては対処のしようがない話です。
ところが、株式の場合、あるテクニックを使えば後から自分の保有株式の購入単価を下げることができる(少し安い価格で買ったことにできる)ので、含み損を生み出している資産の値下がり幅を縮小させることができます。結果として、含み損解消までのハードルを低くすることになります。同じことを不動産投資では実現するのは不可能でしょう。
その方法ですが、株式投資では、自分がある銘柄を買った後に値段が下がってしまった場合、同じ株をあえて買い増すことによって、購入平均単価を下げることができるのです(「ナンピン買い」と呼ばれます)。
たとえば、1株1,000円の銘柄を100株買った後、株価が900円に下がったとします(なお、計算を簡単にするために売買手数料や税金は0として計算します)。
この時点での損益は、900円(現在株価)-1,000円(取得単価)=-100円に、100株を乗じて-1万円の含み損となります。
ここで、この時点の株価である900円で同じ株をさらに100株買います。すると、合計200株の平均取得単価は、(1000×100+900×100)/200=950円となります。950円で200株を一気に買ったのと同じことになります。
含み損の総額自体は-1万円で変わりませんが、その内訳は-100円×100株から-50円×200株に変わりました。1株当たりの取得単価を下げた結果、現在株価と取得単価の差が小さくなり、含み損解消へのハードルを下げることになります。
株式投資の場合、⑪で書いた経済状況の好転や個別の企業努力といった、投資家から見れば他力本願による相場回復に頼るのみならず、投資家自身のテクニックにより含み損の解消に近づける方法もあるのです。ここが不動産投資との大きな違いです。
もっとも、「下がったら買う」ことは、「落ちるナイフをつかむ」とも言われ、買うタイミングを間違えると、買い増した後にさらに下落してしまい一層傷を深める場合もあります。株式投資初心者は簡単に手を出してはいけない高度な見極めを要するテクニックに属することは、念のため申し添えておきます。
さて、ここまで3回にわたり、株式投資と不動産投資の特徴を比較してきましたが、考察を深めれば深めるほど、私には、不動産投資を始める気にはどうしてもなれません。
もちろん、投資は自己責任です。最終的には皆さんの判断にお任せしますが…。